【二月堂の謎の井戸「若狭井」】修二会のときのみ使用される「閼伽井屋(あかいや)」とは?
東大寺・二月堂「閼伽井屋(若狭井)」【重要文化財】
創建年
不明
推定:752年頃 ※奈良時代
再建年
1973年(昭和48年)
建築様式(造り)
入母屋造り
平入り
屋根の造り
本瓦葺き
重要文化財指定年月日
1903年(明治36年)4月15日
法要(儀式)
二月堂・修二会「お水取りの儀式(3月12日の深夜)」
閼伽井屋の読み方
東大寺の境内には難しい漢字の羅列で表記されたお堂や仏像がありますが、「閼伽井屋」は「あかいや」と読みます。
「閼伽」の意味
閼伽井屋の「閼伽(あか)」とは、仏前にお供えされる聖水、もしくは功徳水(くどくすい)のことを意味します。東大寺は「香水」と呼んでいます。
主に「六種供養(仏壇に供える基本的な6つの道具)」の1つとして捉えられています。
六種供養
- 塗香
- 華(花)
- 焼香
- 食べ物
- 灯明
- お水
なお、「香水」と呼ばれる呼称については、実際に香を閼伽に溶け込ませて「香水」と呼び習わすところもあるようです。
閼伽井屋の別名
実はこの「閼伽井屋」には別名があって「若狭井(わかさい)」とも呼称され、その理由は若狭国(福井県小浜)にある神宮寺境内の閼伽井戸(若狭井)と地下水脈でつながっているとされているためです。
そのことを証明するかのように、実際に若狭神宮寺では東大寺お水取りが執り行われる3月12日の10日前(3月2日)になると「お水送り」と呼ばれる儀式が執り行われています。
10日前とする理由は、若狭から東大寺まで水が届く日数がちょうど10日とされているからです。そして、実際にこの閼伽井屋の中の井戸でもなんと!不思議なことに3月12日になると水量が増加して、そのおかげで甕(かめ)に水を汲み入れることができるんだそうです。
若狭の遠敷明神前の川は古来、「音無川」と呼ばれていますが、この理由はお水送りの際、水を送ることによって川音が消えるとの由来から「音無川」という名前が付されたようです。
閼伽井屋の歴史
この閼伽井屋がいつ頃に建てられたかのは定かではないようですが、東大寺の寺伝によれば752年(天平勝宝4年/奈良時代)に実忠(じっちゅう)和上が修二会(お水取り)を開始されたのが起源だとされ、そのときに後述の「遠敷明神(おにゅうみょうじん)」がコンコンと湧き出る水を献じたとされています。
創建以前の閼伽井屋の場所には巨大な大岩があったとされ、前述の「遠敷明神」がその大岩を割ると不思議なことに中からたくさんの水が噴き出し、僧侶たちはすぐさま切り石で周囲を囲んで井戸を造り「若狭井」と呼びならわしたと伝えらえています。
その井戸(若狭井)を守るために、すぐさまこの閼伽井屋が建てられたのであれば、単純に752年〜760年の間とも捉えることができます。
現在の閼伽井屋は1973年から執り行われた昭和の大修理の際に修理された時の姿であり、これは1961年(昭和36年)9月16日の第2室戸台風の影響により、手前の良弁杉が倒壊してしまい、なんと!この閼伽井屋やそのすぐ向こうの仏餉屋(ぶっしょうのや)へ直撃した際に屋根が崩れ落ち半壊状態に至ったとのこと。
閼伽井屋の起源
そもそも「閼伽」の起源が古代インドであったとされており、インドでは来客に対して基本的に次のような2つの水を用意する風習があったとされています。
- 足を浸けてそそぐための水
- 食後に口をすすぐための水
以降、この一般家庭における風習が、やがて仏教へ取り入れられ、インドを起源とした仏教の作法として全世界に伝播していくことになります。
そして、その閼伽を汲むために各家庭では井戸を掘っていたとされ、すなわち、これが今日に見る「閼伽井屋」の姿ということになります。
二月堂に「閼伽井屋が造られた理由」
御本尊に神聖なお水をお供えするための井戸を守るため
東大寺・二月堂に若狭井(閼伽井)が設けられてその井戸を守るための閼伽井屋が造営された理由は、二月堂の「小観音(こがんのん)・大観音(おおがんのん)」と呼ばれる御本尊「十一面観音菩薩」の仏前に神聖な聖水、いわゆる「香水」お供えするためです。
またこの香水を飲めば病気はたちまち平癒に至り、1年間は無病息災から守ってくれるとのことです。これらの事実は平安時代(1106年)に編纂された東大寺に伝わる古文書「東大寺要録(とうだいじようろく)」にも見られます。
すなわち平安時代から現在に至るまでこの香水がもつ摩訶不思議な霊力が信仰され、実際に二月堂の売店でもこの水が「お香水」として300円で売られています。
ちなみにこのお香水、奈良奉行所から批判の声が上がり、大正10年に一度、販売が差し止めになっています。
二月堂に井戸ができた理由
そもそもなぜ、この二月堂の場所に井戸が出来たのかを知りたいところです。井戸がなければ、その井戸を守るための閼伽井屋もなかったわけです。
実はこの二月堂の井戸は二月堂の真裏に建っている「遠敷神社」の御祭神「遠敷明神」がもたらしたとされています。
なんでも実忠和上が修二会を初めて開始したとき、その修二会の行法の中で13700という神様の名前が読み上げられる神名帳を読む行法がありますが、最初、実際に13700の神々に集合してもらったそうです。
しかし、ただ1人だけ集合に遅れてきた神がいましたが、その神様こそが「遠敷明神」です。「遠敷明神」は遅参したお詫びとして実忠和上に「遅参した詫びに本尊に供えるための聖水を献じよう。どうかこれで許しを請いたい。」と告げ、現在のこの閼伽井屋の場所にあった大岩を割って水を湧き出させたと伝えられています。
閼伽井屋の中には一般参拝客が入れる??
ここまで説明すれば、どんな井戸か気になるところですが、残念ながらこの閼伽井屋は3月12日の深夜(厳密には3月13日の午前2時頃)にしか、何人も立ち入ることができません。
平常時は閼伽井屋の周囲に注連縄が巻かれ、結界が施されています。さらにその入り口の石柱にも鎖がかけれて一般参拝はできなくなっています。
なお、この注連縄も年に1回、お水取りが執り行われる直前に取り替えられるものであり、1度つければ翌年のお水取りまでそのままの状態になります。
上掲の写真を見れば分かりますが、注連縄に付けられた榊(さかき)は前回の修二会の時に付けられたままの状態で放置され、引き続き結界としての霊力を宿したまま次回の修二会まで閼伽井屋を守っています。
ちなみに注連縄が用いられるのはこの閼伽井屋だけではなく、その手前の「仏餉屋(ぶっしょうのや)」にも注連縄が据えられています。
これらの事実から察することができるように、修二会とは「不退の行法」と呼ばれるだけあって、それだけ神聖で尊い法要だということです。
えぇっ?!閼伽井屋は決められた僧侶しか入ることができない??
さらに驚くことにこの閼伽井屋には一般参拝客だけではなく、なんと!東大寺の数ある僧侶の中でも「決められた僧侶しか立ち入ることができない」とすれば驚かれますでしょうか?
閼伽井屋に入ることのできる僧侶
- 呪師(しゅし):練行衆のうちの参籠する僧
- 堂童子(どうどうじ):二月堂の守役の家柄の当主
さらに付け加えれば、汲み上げた香水を運ぶことができるのは、「庄駈士(しょうのくし)」のみです。
これらの僧侶や修二会関係者でも3月12日以外は入ることが叶わないとされています。また、これらの僧侶や修二会関係者でも3月12日を迎える頃、身内に不幸があったりするなどがした場合、たちまち入ることができなくなるとのこと。
これらが示すことは、深夜に行われることからして分かるように「秘儀中の秘儀」であり、いっさいの穢れ(けがれ)が許されない厳粛な儀式だということです。
二月堂・閼伽井屋の場所(地図)
閼伽井屋は二月堂・舞台の手前、「良弁杉」の斜め向かいにあります。
二月堂の舞台へ手前の石階段からあがるとき、ちょうどこの閼伽井屋の前を通ってあがることになります。
手前には、年に1回、一般公開される開山堂があり、閼伽井屋の手前には修二会の際に多く方が参列することになる「三月堂前の広場」と呼ばれる場所になります。
二月堂の修二会に関しては以下の別ページにてご紹介しています。
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終わりに・・
地元奈良の人の中でも東大寺をよく知る人の間では、この閼伽井屋や仏餉屋を取り巻く「注連縄」や「榊」が新しくなると「いよいよ春が来た」と感じるのが一種の風趣であるようです。
実際に「お水取りが終れば春が来る」などの言葉もあるほどです。修二会とはそれだけ有名な儀式であり、それだけに意義のある重要な儀式だということでしょう。
ぜひ!あなた様も修二会に参列されて霊験あらたかなご利益を授かってみてください。
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